1.二世帯住宅が増えている背景。

自宅を所有しようと思い立った時に、

・ 場所はどのあたりにしようか?
・ マンションが良いのか、戸建てがいいのかどっちだろう?
・ 土地を買うとしたらどれくらいになるのだろう?


検討項目が次々と生じてきます。そんな時に、


・ 親の住む住宅を二世帯に建て替えて同居するのはどうだろう?


という選択肢が浮上するかもしれません。でも家づくりは始まったばかり。ぼんやりとした状態で、果たしてその選択がいいのかどうかの結論は、余りにも検討項目が多いからか、出しにくいのも事実。


しかし実際のところ、二世帯住宅は年々増えています。様々な社会的背景がその理由だと考えます。


一つは女性の社会進出。仕事と育児を両立する多忙なママさんが増えました。当然、男性の育児休暇の取得も増えつつありますが、育児の主役が母親であるのが大半。そんな時に親が子供の面倒を見てくれると負担の軽減がはかれます。毎日の事だから子供の留守番の事を考えると安心です。

親世帯にとっても、孫と距離が近いとその成長を見守ることができます。孫から刺激を受け毎日の暮らしにハリが出ることでしょう。親たちも将来の身体機能の衰えには不安でしょうし、気持ちの面でも年齢を重ねると不安になりがち。家族が近いということが心の支えになり、安心感につながります。

二世帯住宅にすることで、お互いに心と時間にゆとりが生まれる可能性が高まります。


資金面や税制面でのメリットも多いことからも、積極的に検討する人が増えていますが、その一方で、プライバシーの確保や世帯同士の適度な距離感など、検討すべき点が多いのも事実。


次項から、検討すべきポイントを詳しく見ていきましょう。

2.計画着手前に全員の合意をとりつけること。



これが、最も大切なことです。

二世帯住宅を検討するきっかけは様々ですが、子世帯側の「土地取得費用を節約できるから二世帯にしたい。」という希望がきっかけでスタートするケースが、経験上過半数を占めます。

この場合、親の所有の土地の上に、現在親世帯が生活している住宅を解体して建て替える訳ですから、最初に両世帯でしっかりと話し合うことは、当然のことです。


建替え時の一定期間、親世帯は別の場所での生活を余儀なくされます。慣れ切った暮らしから別の暮らしに変わる事への不安は、計り知れないでしょう。このようなご両親の抱える不安をしっかりとご理解された上で、お話合いの機会を設けることをお奨めします。お話合いを通じて新たに気づくことも多いでしょう。


二世帯住宅の成功は、このプロセスをどれだけ丁寧に考えるかで決まります。


親世帯の抱える不安。ご新居での生活がスタートしてからは、概ね次の様な不安が考えられます。

・ 現在の平穏な暮らしが変わることへの不安。
・ 子世帯との距離の取り方。想定外のストレスへの不安。
・ 仮住まいに関する不安。
・ 資金面での不安。


様々な不安点をご理解した上で、二世帯住宅という選択がベストであるという結論を全員で共有した状態になれば、その後はスムーズに計画が進むことでしょう。

当然、親世帯が新しい住まいで暮らすことのメリットは計り知れません。

・ 断熱性能が向上することによる健康寿命の増進。
・ 耐震性能が向上することでの大地震への安心。
・ 老後の様々な不安の解消。
・ 両世帯合わせた、出費の軽減(節税、土地取得費用の節約など)

このような一般論に加え、ご家族ごとに様々なメリットがあると思われます。

3.プライバシーと配慮。5つのパターンを知る。

通常の単世帯の住宅であっても設計にはエネルギーを要します。だから、二世帯住宅の設計は、更に時間と労力を要します。自由設計の家づくりで設計に着手するにあたっての最初に考えるべきことは、以下の記事に纏めていますが、二世帯住宅の計画にも適用される内容です。ご覧下さいますと幸いです。

(参考リンク)「さあ家を建てよう!」と決断した時に最初に着手すべきこと。

二世帯住宅の設計の前に、5つの基本レイアウトのパターンをご紹介します。原則的には、このAからEのいずれかのパターンを確定してから、本格的なプランニングに進むこととなります。


図の中の1は共同、2は別々を表しています。

例えば、Eタイプは玄関、LDK、設備全てが別々の完全分離型を表しています。コストは右側へ行くほど上がります。簡単に5つの特徴を見ていきましょう。


Aタイプ
通常の単世帯住宅に3世代家族が住むケースとなります。親とのコミュニケーションが取りやすいのはメリットですが、食事、入浴、くつろぐ、家事洗濯などの様々な生活シーンにおいて、お互いのリズムの違いや、融通を利かせる必要といった、他のタイプにはない問題を解決しながら住む必要はあるでしょう。


Bタイプ
ほぼ共有していますが、浴室や洗面を2か所設けているパターンです。入浴や身支度などはプライバシーを保ち、食事や家族でくつろぐ時間は共有したいというニーズに応えられるパターンです。
例えば親世帯が母親一人のみといったケースであれば、ミニキッチンを別途設けて気分次第で母親が食べたい料理を作れるようにしておいたり、2か所目の浴室はシャワーブースのみにしたりなど、設備の設置の方法は臨機応変に対応できます。


Cタイプ
設備関係を共有して、LDKを2か所設けるパターンです。レアケースではありますが、設備を集約することで面積を稼ぎ、その分リビングや個室、収納などに割り振りたいというニーズに応えられるタイプです。入浴や洗面脱衣の時に、お互いへの配慮が必要とされます。


Dタイプ
玄関のみが共有のため、生活上は2棟の住まいとほとんど変わりません。来客時の対応が共通となること、玄関収納が共通となる程度ですのでコミュニケーション面で希薄になりがちですが、玄関分離型と比べると、室内で行き来できるメリットはあります。


Eタイプ
ほとんど別々の家で暮らすのと変わりません。お互いに気を使うことはほぼ無いでしょう。将来、親世帯のスペースの使い道に悩む事態になり兼ねないことは想定しておくことが必要です。

4.気持ちのゆとりを大切に。

二世帯住宅では、お互いが気兼ねせずに暮らすことが何よりも優先されるべきだと思います。干渉し過ぎたり、期待し過ぎたりすれば、どうしてもストレスは溜まります。だから、それぞれが気兼ねせずに過ごせる時間が確保できるかどうかという視点で、計画を始めることをお奨めしたいです。

例えば、リビングが共通であったとしても、別のエリアに長時間くつろげるような場を設けたり、お互いの就寝を妨げないような動線計画にしたりといった配慮は全て、このような視点に立っています。

二世帯住宅の計画は、考えるべきポイントが多くてなかなかまとまりにくいのですが、長い目で見れば「気持ちのゆとり」という視点を最重視したいですね。


そして親と同居する場合、もう一方の親への配慮もしておきたいところです。気軽に招くことができるような心配りも欲しいところですね。

5.介護への備え。

二世帯住宅で親と同居すれば、将来必ず、親世帯の介護問題に直面します。その頃は、子世帯は何歳くらいになっているか? 身体機能は弱っていないだろうか?そんな不安もよぎります。

在宅介護や訪問介護、いずれを想定する場合であっても、

・ トイレ、浴室と寝室との間の移動手段。
・ ベッド周りのスペース。
・ 他の家族の居場所との距離。
・ ベッドのある部屋の温熱環境。

などには最低限配慮されることをお奨めします。


家族が介護する場合や訪問介護を想定した場合のいずれであっても、トイレや浴室の設計次第で介護のしやすさは大きく変わります。足腰が弱ってきたり障害で歩けなくなると、車いすでの移動が日常となります。車いすを前提とした間取りにしておけば介護のストレスは低減されます。


もちろん、室内の段差や廊下・出入口の幅にも十分に配慮しておきましょう。そして、要所要所で手摺を付けておくかどうか、最初は不要だから下地だけ仕込んでおくだけに留めるか。


トイレのたびに介護者を呼ばなくてはならない事態となれば、お互い辛いもの。特に、深夜のトイレが繰り返されると、家族は慢性的な寝不足になり兼ねません。家族の介護負担を減らすためにも、できるだけ自分のことは自分でできるような環境を整備しましょう。


また近年、内科医の訪問診療、歯科医の訪問治療が増えつつあります。ベッド周りのスペースもゆとりを取った方がいいでしょう。


他の家族の居場所との距離にも配慮しておきたいところです。要介護となれば、就寝時間が不規則となったり、何かと介護する方の手間が増えたりと、家族への影響も大きくなります。できるだけ家族のストレスを和らげられるような適度な距離感を保つことも大切です。

最後に、部屋の温熱環境もとても大切。詳しくはこちらの記事に書いていますが、高齢者は温湿度の変化から受ける影響が大きくなります。健康な人にとっての室温が、例えば循環器疾患をお持ちの方には危険な環境となる場合もあります。詳しくは下記の記事をご覧下さい。

(参考記事)断熱住宅へのこだわりは、健康寿命を延ばす「テッパン」です。

以上のように、介護を想定する場合には抑えておくべきポイントがいくつかあります。親世帯の建築計画では特に注目しておきましょう。

6.親世帯が不在となる将来への備え

一つ目は相続です。

別記事で説明しましたが「小規模宅地等の評価減の特例」を適用させて相続税を節税できます。建築する住宅の登記や間取り次第で適用されるかどうかが変わりますので、詳細はこちらの参考記事をご覧下さい。



(参考記事)親が住む住宅を二世帯住宅に建替えることで、相続税を軽減できます。



更に、相続が絡む場合は、兄弟などの別の相続人への配慮も忘れないようにしたいところです。例えば、親名義の土地を兄弟間で相続した場合、別の場所に住む兄弟も土地の一部を所有する形になります。仮に、その兄弟が土地を現金化したい事態となった場合に、問題が生じます。

従いまして、土地の共有をできるだけ避けるように、あらかじめ相続対策について話し合っておいた方がいいでしょう。



二つ目は空いたスペースの活用方法です。


親世帯の住居に誰も住まなくなった時の対策方法を、あらかじめ考えておくこともお奨めします。

・ 子世帯が引き続き使うならば、それを想定した間取りに。
・ 賃貸収入を得る事を想定するならば、分離型を優先的に…など。


様々な可能性が考えられますが、家族のライフステージ、つまり10年,20年,30年経過した時の状態を想像しながら、早い段階から候補をリストアップしておくこともいいでしょう。

7.まとめ。

検討すべき課題が多い二世帯住宅。様々なメリットを最大限に享受するために、チェックポイントをまとめてみました。住宅づくりは夢のあるプロジェクト。両世帯でしっかりと、未来について語り合って下さい。