1.二世帯住宅を選ぶメリットは豊富。

土地を取得して新居を建築するとなれば、かなりの総額となります。このような理由もあり、二世帯住宅として親名義の古家を建て替えるケースが、最近増えています。

土地の取得費用が節約できる以外に、二世帯住宅を選ぶメリットは豊富です。

お年を召したご両親も、性能が優れた新しい住居での生活ができます。断熱性能が向上するので、健康寿命を延ばすことに貢献できるでしょう。建物の老朽化に対する不安が解消し、耐震性能も確保できることから、安心して住み続ける事ができるという声はよく聞きます。

何よりも、子世帯との距離が縮まり、老後の身体機能面での不安も解消し、孫と触れ合う機会も増えて、充実した毎日を過ごせそうですよね。

一方で、ママも子供の面倒を見てくれる両親を確保できることで、行動範囲も広がるでしょう。建築計画にあたり、お互いのプライバシーや距離感をしっかりと確保すれば、大変魅力的な案です。

以上の理由から、二世帯住宅という選択肢が今後増えると予想されていますが、今回は、相続税の節税というメリットに焦点をあててみたいと思います。


2.「小規模宅地等の特例」とは何か?

土地を相続するときは、その土地の評価額に対して相続税の金額が決まりますが、「小規模宅地等の特例」を適用すれば、その評価額を80%減らすことができます。そうすることで、土地の相続税が大幅に節税できるのです

例えば、土地の評価額が6,000万円だとすれば、この特例の適用により、1,200万円へ減額できます。この減額された金額のもとで、相続税を計算することができるので、大幅に節税ができるのです。

3.節税額を計算してみる。


相続税の節税手段である「小規模宅地等の特例」を適用した具体例を、ここでご紹介します。

先ずはシンプルにご理解いただくため、建替えていない中古住宅に同居している長男の相続税の節税額を見てみましょう。

前提条件

  • 長男の父Aさんは、9,000万円の土地を所有しています。
  • この土地が、Aさんの財産の全てだとします。
  • 法定相続人は、妻と長男の2人です。遺産を1/2づつ相続します。
  • ご両親と長男は同居しています。

相続税の計算

小規模宅地の特例を適用することで、土地の評価額が80%下がって1,800万円となります。相続税の基礎控除額は、

3,000万円+2人×600万円=4,800万円。

と計算され、この金額が1,800万円より大きくなるので、お二人には相続税が発生しません。

*基礎控除の計算はこちら(国税庁サイト)をご参考下さい。

長男が別居している場合

もし仮に長男が別居していれば、9,000-4,800の半分である2,100万円が、長男の相続税の課税対象となりますので、

2,100万円×15%-50万円=265万円

が長男が支払うべき相続税となります。(税率10%、控除50万円) 
*相続税の税率はこちら(国税庁サイト)ご参考下さい。 

265万円の節約に!

この特例を適用した結果、265万円の相続税がゼロとなりました。ただし、適用にあたっては条件があります。次にその条件をご説明します。

4.小規模宅地等の特例が適用出来る条件。

適用の条件は以下の通りです。

  1.  敷地面積の330㎡までが適用される。
  2.  被相続人(つまり3の事例では父親)と、同居していたこと。
  3.  相続税の申告期限(つまり父親の死後10か月)まで継続保有かつ居住していること。
  4.  家屋の登記が、被相続人の単独名義、または被相続人と相続人の共有名義のいづれかに限る。

ここで注意しておきたいのが、4つ目の登記。ここで示された条件以外、例えば、1階は被相続人名義(父親名義)、2階は相続人名義(長男名義)というように、複数区切って登記をしている場合には適用外となります。この場合の登記を、「区分所有登記」と呼びます。

5.二世帯住宅で節税ができる理由と注意点。

これまでに、小規模宅地等の特例による節税の方法をご説明しました。

二世帯住宅を建てる事で相続税を節税するということは、「相続前から被相続人(父親)と生活をともにしておく」ということであることが、ご理解いただけたと思います。この適用条件は既にご説明した通りですが、建物の設計面で一つだけ注意しておくべき点があります。

2つの世帯が屋内で行き来できるかどうか?

この条件を満たしていない場合、生活を共にしていないと見なされる恐れがあります。この線引きは非常にあいまいなため、行き来できる構造にしておいた方が無難です。もしそうしない場合は、税の専門家や管轄の税務署に念のため確認しておいた方がいいでしょう。

6.親の資産を現金から不動産に変えることによる節税メリット。

二世帯住宅の建替え資金の一部を父親が支払うことでも、相続税の節税が可能となります。実際のケースで見ていきましょう。


ここでは、父親から多額の現金を相続する可能性が高い場合の節税についてご紹介します。

簡単にするために、法定相続人は長男一人とします。

父親の資産

  • 自宅の敷地面積:300㎡
  • 敷地の評価額:6,000万円
  • 建て替え前の家屋の評価額:500万円
  • 建て替え前の預貯金:6,000万円

新築の二世帯住宅

  • 父親の住まいを二世帯住宅に建替える。
  • 長男家族が同居する
  • 建築費:6,000万円(諸費用含む・上記の預貯金を全て使う)
  • 評価額:3,000万円(概ね建物評価額は5割程度となります)

相続税の計算

<CASE.1>
土地の評価額は、6,000万円から8割ダウンの1,200万円(小規模宅地等の特例を適用)。 建物評価額3,000万円と合わせて、相続遺産は4,200万円となります。現金はゼロです。

相続税の基礎控除、3,000+600=3,600万円を差し引いた、600万円に対して相続税が発生します。その金額は、60万円となります(税率10%。控除ゼロ)。

二世帯住宅を建てずに相続した場合<CASE.2>

仮に、二世帯住宅を建てずに相続した場合、土地、建替え前家屋、現金を相続します。つまり、

6,000+500+6,000=12,500万円

に対し課税されます。これから基礎控除3,600万円を差し引いた、8,900万円に対して相続税が発生します。従いまして、

8,900 × 30% - 700 = 1,970万円

を相続税として支払う義務が生じます。CASE.1とCASE.2で、60万円と1,970万円の差額が生じました。
*相続税の税率はこちら(国税庁サイト)ご参考下さい。 


<CASE.1>は、資金の出し手が父親のみで現実性に欠けますが、

  • 現金とは違い、建物は時価ではなく評価額に対して課税されること。
  • 同居の場合、小規模宅地等の特例を適用できること。

この2点を理由に、大きく節税ができるのです。

7.まとめ。

親が住んでいる中古住宅を二世帯住宅に建て替えることは、土地取得費用が節約できるばかりか、相続税を大幅に節約する事が可能です。新しいお住まいを検討するにあたり、一つの選択肢としてお考え下さればと思います。

実際のご検討にあたっては、様々な視点から総合的に判断する必要があります。もちろん、資産相続の視点とは別に、毎日の生活面に影響を及ぼすお互いの距離感にも十分に配慮した設計の視点も大切です。

様々な条件を事前に検討し、2つの世帯が納得できる条件を確定した上で、具体的な建築計画を進めることをお奨めします。ご検討にあたっては当社までご相談下さい。