1.化学物質過敏症。その症状と実際の声。

私たちの身の回りにある様々な化学物質に対して過敏に反応し、頭痛や吐き気その他の深刻な症状を誘発することを総称して、化学物質過敏症と言います。

現代の私たちの生活において化学物質は不可欠です。住まいに限らず、家具、衣類、雑貨、自動車など、身の回りにあって直接触れるものでも、様々な化学物質があります。

化学物質過敏症(Chemical Sensitivity=CSとも言われています)は、そんな様々な化学物質に微量に接触するだけで、身体に深刻な異常を生じる恐い疾患です。

直接手で触れることは当然ですが、空気中に漂う微量の化学物質にも身体が敏感に反応してしまうほどの、恐い症状。この疾患を発症してしまうと、日常生活に支障をきたすだけではなく、完治するまでに大きな困難を伴います

1-1.化学物質過敏症とはどんな症状なのか?

化学物質過敏症により現れる具体的な症状は多岐に渡り、自律神経症状、神経・精神症状、気道症状、消化器症状、感覚器症状、免疫症状、泌尿生殖器・婦人疾患と、人体のほとんど全てに異常が生じると言ってもいい程です。

以下にこれまで報告された症状をまとめます。


日常生活に支障をきたし苦しんでいる方が大勢いらっしゃいます。ツイッターの声を幾つか拾ってみました。

無添加住宅でマンションリフォームしたS様の声です。

私が、化学物質過敏症を発症したのは、6年程前のこと。それ以前からすでに、新築ビルの中に入ると目が乾いてちかちかしたり、シャンプーの匂いに違和感を覚えるようになり、少しずつ何かがおかしいなとは感じていました。(略)ある日、風船がはじけるように突然、化学物質過敏症になってしまったのです。例えると、アウシュビッツのガス室にいるような感覚。四方八方から毒ガスが降りかかっているような感じで、家の中にいることはもちろん、外にも出られないような状態に。それまで着ていた洋服にも臭いを感じて苦しくなりました。


引用元 無添加住宅マテリアルブック

無添加住宅マテリアルブック

実際に発症した方々の訴えはとても深刻で、日常生活に支障をきたされています。更に、この症状についての社会全体の理解不足も、発症された方々を一層苦しめています。

1-2. アレルギーとの違いは?

ある化学物質に過敏に反応するという意味においては、アレルギーと似ていますが、その発症のメカニズムは異なります。

異物が体内に入った時、それを撃退する免疫反応により生じるのがアレルギーです。化学物質過敏症は、身体が許容できるレベル以上の化学物質が体内に蓄積した結果生じる、様々な症状です。

アレルギーの場合、血液検査でアレルゲンを特定することが可能なため対策が立て易いのですが、化学物質過敏症の場合、原因物質と症状の因果関係を究明することが、未だできていません。

これも、化学物質過敏症の深刻さの一つの理由だと言えるでしょう。

2.化学物質過敏症の原因(生活用品や職業の視点)。

化学物質で溢れる現代の生活環境において、この疾患にかかってしまうリスクは誰にでもあると言えます。ここでは化学物質過敏症に罹る原因を探ります。

2-1. シックハウス症候群の悪化が原因の半数以上。

住宅や家具から、人体に有害な様々な化学物質が空気中に放散されています。シックハウス症候群とは、その化学物質が原因で身体に様々な異常が生じる疾患の総称です。

住宅建材や家具には接着剤や塗料、プラスチック製品などの様々な工業製品が使用されています。これら工業製品からは、人体に有害な物質が揮発しており、それが室内の空気中に漂っています。日常的に、この物質を呼吸を通じて体内に取り入れ続けると、化学物質過敏症を発症する可能性が高まります。

慢性的に頭痛、めまい、目や鼻の異常、倦怠感といった症状が現れるのがシックハウス症候群です。化学物質過敏症は、体内に溜まった有害物質が許容範囲を超えた瞬間、ごく微量の化学物資にまで反応してしまうという状態です。一度発症すると、その後は常に許容範囲ギリギリの状態で日常を過ごすので、化学物質に接触する量が極わずかであっても危険なのです。

2-2. 農業や工業の現場での活動も、発症の理由の一つ。

農薬を原因とする化学物質過敏症の報告も多いです。農薬を取り扱う農業従事者以外にも、農薬のヘリコプター散布による周辺住民への健康被害も報告されています。

また、工場からの排気ガスが住宅地に広がって、日常的に有害物質に暴露した結果、身体に異常が生じる例もあります。

それ以外にも、薬品を常時使う美容師や製造業従事者も発症リスクが高いと言われています。

ただ実際のところ、先ほどもお伝えした通り、化学物質過敏症は、原因と症状との因果関係を究明することが困難です。工場や農薬、薬品を使う仕事そのものが原因であると特定することは難しいため、日ごろからできるだけ、化学物質に暴露しない対策を、意識的に行うことが大切だと考えます。

2-3. 柔軟剤、芳香剤、香水などの生活用品が最近多い原因。

芳香剤や柔軟剤が、日常に浸透しています。これらも化学物質過敏症の原因の一つとされています。

化学的に合成された成分を含む芳香剤や柔軟剤。毎日使い続けることで、その香りに鈍感になり、呼吸を通じて体内に蓄積し続けている事実に、無意識になりがちです。

特に最近は、芳香剤や柔軟剤による被害が多発している事もあり、自治体も注意喚起をしている程です。下のTwitterは、世田谷区保健所が小学生向けに発行したペーパーです。

その他、香水やタバコなどの身の回りで日常的に使うものも、原因として挙げられています。

3.化学物質過敏症によって生じる日常への悪影響。

化学物質過敏症を発症すると、その完治が困難であるばかりか、身の回りに溢れる化学物質に過敏に反応してしまう毎日が続きます。日常生活に対し、多大な影響を及ぼすことになる化学物質過敏症。日常生活を妨げている実際の報告事例をご紹介します。

3-1. 退職を余儀なくされた事例。

【事例A】女性銀行員のケース。

自宅でのウレタンコーティングの剥離作業が原因で、重度の化学物質過敏症を発症。剥離されたウレタンコーティングから分解し、気化したイソシアネートを大量に吸い込んだことが原因。

当初は、頭痛、めまい、下痢、目の充血が見られた。次第に、様々な化学物質に反応するようになり、化学物質が入った食品を制限せざるを得なくなる。

柔軟剤や香水にも身体が反応して、銀行の窓口業務ができなくなり退職。

  (出典 https://biz-journal.jp/2018/05/post_23300_2.html

【事例B】塗装工のケース。

自動車塗装に従事する男性が、この仕事に就いて1週間後に、咳、息切れ、鼻水、変声などの症状が現れる。皮膚の異常や発熱も生じる。塗装作業ではなく、帰宅後の夜に症状が出る。休日明けの朝のみ症状がでない。レントゲンでイソシアネートによる過敏性肺炎と診断され、入院治療の結果、改善した。現在塗装の仕事を辞めて元気になられた。

(出典 https://biz-journal.jp/2018/05/post_23300_2.html

3-2. 子供の登校や授業に、支障をきたしている事例。

【事例A】教室に入れないため運動場で授業をうける児童。

大阪府の男子児童(8歳)は、校舎内の壁のペンキや児童の衣類から発する洗剤・柔軟剤の成分に反応して、頭痛や脚のしびれ、鼻血、発熱などの症状が出る。

そのため、運動場の片隅で個別指導を受けている。

4歳のとき、母の実家で衣料用防虫剤がタンスにたっぷり置かれた部屋で寝た翌朝、まぶたが腫れあがり全身に蕁麻疹が出た。その後、化学物質過敏症となった。

(出典 lhttps://diamond.jp/articles/-/164198

【事例B】制汗スプレー・除菌スプレーで発症し休学状態となった生徒。

札幌市の女子生徒(17歳)は、中学生の頃から香水・洗剤・タバコ・排ガスなどが苦手になった。

なんとか通学して卒業。私立高に進み、周囲で使用される制汗スプレーにさらされてから、頭痛・吐き気におそわれるようになった。

次第に全身倦怠感・めまい・発熱・関節痛・食欲不振が加わり、通学が困難になった。

防塵マスクを着けて通学していたが、症状はさらに悪化し、いまはほぼ休学の状態である。

(出典 lhttps://diamond.jp/articles/-/164198

3-3. 衣類に特別な配慮をされている事例。

【事例A】衣類を煮沸している男性の事例。

化学物質過敏症の原因物質はかなり個人差があると思うのですが、私の場合、「服についているなにか」もその一つです。この「なにか」の刺激は弱くて、普通に生活するぶんには大丈夫なレベルです。しかし、布団にはいって寝る時、空気の澱んだ状態では辛くなってしまい、眠れなくなります。だから、10分煮沸して、その後洗濯しています。

(出典 https://totomo.net/11227-hukuyude.htm

【事例B】オーガニックコットンを重曹で洗う女性の事例。

腐食した自宅のガス管から漏れるガスを日常的に吸い込んで、重度の化学物質過敏症を発症した女性の場合、オーガニックコットンの衣類を半年間に渡って重層で洗い、ようやく着られるようになる。

(出典 http://www.ntv.co.jp/gyoten/backnumber/article/20171031_03.html

3-4. 食事制限の事例。

【事例A】重度の化学物質過敏症の女性の事例。

食べ物は、無農薬で化学肥料を使っていないオーガニック食品しか口に入れることができない。

(出典 http://www.ntv.co.jp/gyoten/backnumber/article/20171031_03.html

【事例B】札幌市の女性の事例。

外食をしたり、既製品を食べると、体の具合が悪くなって2-3日寝込むことがあったり、今でも、誰かと一緒にケーキを食べたりすると、2-3日、お腹が苦しかったりします。

(出典 http://www.hiei.co.jp/wp-content/uploads/2012/03/c4d3890f6a8d74dc72928ddce2865828.pdf

4.化学物質が、子供の発達障害の原因の一つであるとの指摘も。

近年、国内外問わず、軽度の発達障害の子供が急増しています。発達障害の原因は、最近までは遺伝的要素が強いと考えられていました。しかし、最近の研究では、何らかの環境変化、つまり化学物質の人体への影響が原因であることが明らかになってきました。

(出典 http://kokumin-kaigi.org/wp-content/uploads/2013/08/newsletter082.pdf )

脳神経の専門家によれば、特に有機リン系や、ネオニコチノイド系農薬が脳の発達をかく乱し、脳内に異常な神経細胞が広がり、自閉症などの発達障害が起こる可能性が指摘され始めています。

上記以外の化学物質の脳への影響は、まだまだ解明されていないことが多いですが、子供を様々な化学物質から守ることはとても大切であると考えます。

空気中の成分や加工食品の成分。身体の小さな子供への影響は、成熟した大人に比べ計り知れません。化学物質過敏症とは別の話題ではありますが、子育てをされている全ての皆様に知っていただきたい事実です。

5.日常できる予防措置。

私たちは、当然のごとく化学物質が溢れた生活を過ごしています。だから、完全に排除することは不可能です。

かつて使用されていて、現在では制限されている化学物質があります。化学物質の危険性と安全性は、現在のところ詳しくは解明されていません。だから、現在使用されている化学物質も完全に安全であるとは限らないのです。

日常生活で完全に排除することはできませんが、できるだけ避ける事で、シックハウス症候群や化学物質過敏症の発症を阻止することは可能です。日々心掛けたいことをまとめてみます。

5-1. 家庭内で化学物質に触れる機会を減らしましょう。

住まいの中には様々な化学物質があります。普段、全く意識していないために無意識に体内に取り入れてしまいます。

各種洗剤の使用後はしっかりと除去したり、芳香剤や柔軟剤の使用に配慮したりと、できるだけ肌に触れる機会を減らすようにすることをお勧めします。実際、柔軟剤の使用で体調不良を訴える相談が増えています。

(出典 https://www.nikkei.com/article/DGXNASDG1905Q_Z10C13A9CR8000/

特に、小さなお子様が触れる物についてはご注意ください。

タンスに入れる防虫剤が原因となるケースが多いです。衣類に殺虫剤が付着した状態でその衣類を着る事で、呼吸により長時間殺虫剤成分を体内に取り入れてしまいます。当然、タンス部屋には殺虫成分が充満します。ご使用にあたっては十分にご配慮されることをお勧めします。

家具や家電製品は、特に購入後、揮発性の有機化合物を大量に空気中に放出します。購入後にツンとするシンナー系の臭いを嗅いだご経験が皆様おありだと思います。

特に規制の弱い国でつくられた家具からは、有害な物質が大量に発生していますので、購入にあたってはご注意されることをお勧めします。

DIYで塗料や接着剤を使う時には、特にご注意ください。密室で長時間作業をすると、有害物質を大量に吸い込んでしまいます。先ほどの実例でお伝えしたとおり、一晩で発症する事例もあります。屋外での作業、若しくは換気がしっかりできる場所での作業に限定して、作業中はできるだけ新鮮な空気環境を保って下さい。

食品にも大量の化学物質が使用されています。食品由来の化学物質過敏症についてはあまり聞いたことがありませんが、身体に悪影響を及ぼすことは事実です。子供たちのためにも、できるだけ、食品由来の化学物質を取り入れる機会を減らすことをお勧めします。

5-2. 清潔な空気環境を保つため、しっかりと換気を!

シックハウス症候群の悪化が化学物質過敏症を発症する原因の半数以上と言われています。住居の空気汚染が、私たちの想像以上に深刻であることがわかります。

現在の住まいには大量の工業製品が使われているため、住居から化学物質を完全排除して、化学物質を含まない空気環境を実現することは、ほぼ不可能です。

従いまして、しっかりと換気をすることが、効果のある予防措置となります。24時間換気システムは年中作動させてフィルターの清掃も怠らないこと。天気の良い日は窓を開放し、屋外の新鮮な空気を取り入れる事。こういった習慣一つで、シックハウス症候群や化学物質過敏症の予防が可能なのです。

5-3 屋外での接触機会をできるだけ避けましょう。

屋外に出れば、有害化学物質に触れる機会があると思います。工場からの排ガスが多い場所、交通量が激しい道路沿い、農薬散布中の田畑など、空気汚染が気になる場所は、出来るだけ滞在時間を減らしましょう。

街中でリスクが高いと考えられるのが、家具量販品店です。家具には、大量の接着剤が使用されていますので、換気が不十分な店の空気は、シックハウス症候群の原因であるVOC(揮発性有機化合物)の濃度が、非常に高くなっています。

最近は、臭いがしないVOCも使用されています。自覚しにくいため、直さら注意された方がいいでしょう。

6.発症してるかも?そんな時は専門外来へ。

化学物質過敏症かもしれないと感じたら、一度、専門の外来へ行くことをお勧めします。これまでに、家庭内や仕事の現場において化学物質に長時間接していた方は、特にお勧めします。

従来、化学物質過敏症という疾患そのものへの認識が、医療機関で低かったために、自律神経失調症その他の疾患であると誤診されるケースが多かったですが、最近では専門の外来も、全国的に増えてきました。

調べた結果、神奈川県では、東海大学附属病院様、山口外科医院様、鎌倉かまりん皮膚クリニック様が対応されていらっしゃるようです。

その他の都道府県における専門外来はこちらをご覧下さい。

(参考 https://byoinnavi.jp/g24

7.今出来ることは、化学物質過敏症への理解を深めること。

化学物質過敏症の問題が深刻である理由の一つが、周囲の理解が得られにくいことです。化学物質過敏症への理解が浅いがために、その疾患を持つ人への配慮が欠ける言動が多いのが実情です。

化学物質に反応する度合いは個人差が大きいため、同じ環境でも症状が重い人がいたり、全く症状が出ない人もいます。また、症状も様々です。発症の仕組みについては、未解明な部分があり治療法も確立されていません。

原因不明の体調不良に苦しみ、周囲の理解がないことも加えた二重の苦しみで、辛い思いをされている大勢の方がいらっしゃいます。厚生労働省も「化学物質過敏症は、定義があいまいで診断基準も定まっておらず、患者数の把握はできない」との見解です。

(出典 https://www.nishinippon.co.jp/item/n/450797/

日本国内の、化学物質過敏症患者数の推定は、様々な調査から、人口の4.4%-7.5%と見られています。つまり、最低でも500万人以上の方が、程度の差はあれ、化学物質過敏症であると推計されています。

(出典 https://www.nishinippon.co.jp/item/n/450797/

現代社会に生きる私たちにとって、いつ自分や家族が発症してもおかしくない化学物質過敏症。大変多くの方々が、現在でも辛い思いをされていることを知っていただければと思います。

8.まとめ

・ 私たちの身の回りの様々な化学物質に過敏に反応し、頭痛や吐き気その他の様々な症状を誘発することを総称して、化学物質過敏症と言います。

・ 日常生活にも大きく支障をきたす深刻な疾患。仕事や通学にも影響が出て、思うような生活ができない方々が多いのが実情です。 

・ 全国に最低でも500万人以上と推計される化学物質過敏症。正しい知識を持ち、予防に努めるとともに、発症されている方々への配慮を心から願います。

参考リンク

シックハウス症候群とは?原因や対策を住宅の専門家が詳しく解説します。

シックハウス症候群の原因である室内空気汚染。国の対策はどうなっているの?