1.結露の発生と木造住宅の劣化。

「結露」とは、水分を含んだ空気が、冷たいモノに触れた結果、液体になって付着する現象です。

  • 寒い冬の日、窓ガラスの内側に付着した水滴。
  • グラスにキンキンに冷えたビールを注いだ直後の、グラスの水滴。
  • 自動車の運転中に、フロントガラスの内側に発生する曇り。


これらは全て、結露です。この結露という現象は、条件が整えば必ず発生します。私たちが直接目にすることが多いのは、窓ガラスやサッシの結露ですが、実は目に見えない、壁の中、床下、天井裏などのあらゆる部分で、結露が発生する可能性はあります。

結露水は、発生後の温湿度条件次第では、直ぐに消滅します。しかし悪条件が重なれば、長期間留まってしまいます。

木材に水分が長期間付着すると、木材腐朽菌が繁殖します。
木材腐朽菌の繁殖に好条件が続けば、木材は腐ります。



これが木造住宅の耐久性を左右する最大要因です。

腐朽した木材の場所が、容易に取り換えが可能な場所ならまだしも、重要な構造部分、例えば、柱や土台などであれば耐久性を損ないますし、加えて耐震性を一気に落とすことにもなります。

2.結露との闘いが始まったのは昭和以降。

湿気の多い日本。かなり昔から木造建築物は建てられています。


弥生時代(紀元前5世紀から紀元後3世紀まで)の吉野ケ里遺跡で見られる高床式倉庫。地面付近の湿気を防ぐため高床にして、構造も風通しを良くしています。湿気対策を最優先にした構造であると言えます。

また、世界最古の木造建築物である法隆寺。1300年の間、補修を重ねて現在に至ります。風雨にさらされ続けた軒などは、新しい材木に交換されますが、古びた柱などは、”カンナがけ”すると生のヒノキの香りが漂ったほど、状態が良かったことは有名です。

当然、昔は木材の腐朽を防ぐ防腐剤などありませんから、いかにして長持ちさせるかを追求した足跡は、真壁構造の民家や寺社建築の意匠で確認できます。木材以外では、土、わら、漆喰を使い、どの部材も呼吸ができる状態で組み立てているため、結露水が滞留するという場所はありません。むしろ、雨水への対策に注力していました。

結露との闘いが始まったのは、昭和になってからなんです。(後に詳しく触れます)。

3.結露が発生する原理。

ここで、結露が発生する原理を解説します。

湿度の話


空気は、水を液体ではなく気体として、確保することができます。湿った空気、乾燥した空気と、天気予報で言われますが、それは、空気中に含まれる水分量の違いです。

霧の中に入ると視界不良となります。これが湿度100%の状態です。
夏の蒸し暑い東京では、湿度は85%前後。
冬のカラリと晴れた日の東京で、約42%
乾燥した砂漠でも、20%はあります。
ドライサウナでも10-15%
湿度0%とは空気中に一切水分が無い状態です。地球上ではありません。

結露の話


空気は温度が高いほど、大量の水分を気体の状態で確保することができます。
逆に、温度が低いほど、少しの水分しか気体として確保できません。

気温30℃の空気が、最大で32の水分量を確保できるとすれば、
気温10℃の空気は、最大で10の水分量しか確保できません。


例えば、気温30℃で水分量が20の空気が、10℃に冷えたガラスに触れると、ガラス付近の空気が10℃に冷えるので、確保限界の10を超えた分だけ、液体の水分となります。

これが結露という現象です。結露は、湿気を帯びた暖かい空気が、冷たいものに触れることで発生します。


4.内部結露の話。その対策方法。



結露の発生原理は先ほどの解説の通りですが、ここからは壁の中や床下の結露、つまり内部結露について解説します。

先ほど、「断熱材を入れる事で結露が発生した」と言いましたが、これは、断熱材の存在でその両面の空気に温度差が生じ、その結果、冷たい空気側で結露が発生したということです。


夏のエアコンの効いた室内と暑い外気との温度差。
冬の暖かい室内と冷たい外気との温度差。


つまり、夏と冬の快適さを追求した結果の代償として、内部結露対策という新たな課題が生じたのです。



そもそも、長寿命なつくりであった日本の木造建築に、「断熱材をしっかりと入れる」ことが普及し始めたのは、1970年あたりの第一次オイルショックの頃。暖房費を節約するためにも、冬温かい断熱住宅を建てるべきだという風潮になったことがきっかけです。


ただ、断熱材を入れることで必要となる内部結露対策についての知識が無かったために、内部結露により木材が腐るというトラブルが、全国で相次ぎました。有名なのが、「なみだ茸事件」です。1970年代あたりの話です。

なみだ茸事件

壁の中の内部結露対策を怠った高断熱住宅が、たった築3年程度で床が抜けるほどに材木が腐ってしまった実例が発生。その数3万件以上となり、社会問題化した。木材腐朽菌の一種である「なみだ茸」が、壁の中や床下に大量に繁殖したことが原因。北海道を中心に多くの住宅が被害にあった。

「ナミダダケ」と画像検索していただければ床下の画像がたくさんでてきます(コチラ)。


このように、内部結露についての知識が無ければ、築3年程度で材木は腐ります。

「断熱性能の向上」と「壁体内結露対策」という相反する2つの目的を達成するための新たな試練が課せられたわけですが、現在では、過去の教訓が生かされてほとんど克服されつつあります。

ただし、対策のレベルは会社ごとに変わるのは事実です。詳しく説明するとかなり専門的になりますので、ここではチェックポイントだけを簡単にご説明します。


(1)断熱材が、ずさんな施工とはなっていないか?

パンフレットでいくら性能をアピールしていても、実際の施工が悪いと結露が発生しやすい環境となります。特に隙間が多いと結露しやすくなります。


(2)湿気の排出が妨げられていないか?

現在、内部結露対策として「通気層」という空気の通り道を壁の中に設けることが主流となっています(通気層を必要としない工法も、一部であります)。時々、この通気層がどこかでふさがっている工事があります。そうであれば湿気の逃げ道が無いので、結露が発生しやすくなります。


教科書的には、この2点に加えて、

(3)室内側に透湿抵抗の高い防湿層を設ける。そしてそれを確実に行うこと。

を言われます。これは防湿フィルムというものを室内側に追加で施工することで対応します。ただし、断熱材をはさんで、室内側と室外側との湿気の通しやすさの割合(これは、専門的には透湿抵抗比と言います)で、そもそも、内部結露の発生を理論的に判定できますので、フィルムが必須という訳ではありません。

5.木材腐朽菌 -耐久性を落とす張本人。


先ほどは、内部結露の発生原理と対策についてお話しましたが、結露は自然現象であるため、条件が揃えば必ず発生します。夏場の空気は湿度90%近くになる日も多いですから、むしろ結露が発生して当然だと考えます。

結露が発生しても木材が腐らなければ良い訳ですから、ここで木材を腐らせる張本人である木材腐朽菌の繁殖条件について、少し触れておきましょう。

木材腐朽菌は、難分解性のリグニン、セルロース、ヘミセルロースを分解する能力を持っているため、木材をボロボロに腐らせるのですが、その能力を発揮できる必要条件があります。それは、

栄養分(上記の木材の主成分)

酸素

温度(3-45℃の間)

水分


の4つです。一つでも欠けると繁殖はできません。このうちコントロールできるのは、水分だけです。住宅においての木材腐朽菌の活動条件の定説は、


質量含水率40-60%程度の高含水状態が、3ヵ月以上続いた状態で活動する。


とされています。質量含水率とは、材木にどれだけ水分が含まれているかという割合です。


水分が一切含まれない材木が10kgとしてこの材木に1kgの水分が含まれていれば、含水率は10%という定義です。因みに、山に生えている状態の杉やヒノキは、含水率100%超にもなります。山で切った木材を建築材料として使うためには、水分を減らさないと、反ったり狂ったりします。乾燥させた材木の含水率は概ね、15-20%です。

木材腐朽菌の話に戻りますが、含水率20%の材木が、含水率40-60%程度の高含水状態となり、しかもそれが3ヵ月続けば、繁殖することになります。

逆に、結露により材木の水分が増えたとしても、それが3ヵ月続かなければ繁殖しないとも言えます。結露対策が完璧ではなくても、材木を腐らせない理由がここにあります。

これはつまり、天気の移り変わり、四季の移り変わりの恩恵を受けて、幸運にも何とか対策ができているとも言っていいでしょう。ただし、ナミダ茸事件があったのは事実ですから、強く対策を意識しないといけないのは変わりません。


6.建て方や住み方の対策。



内部結露対策の工法は、先ほどご説明しました。また、天気や季節のサイクルで木材腐朽菌の繁殖が抑えられるというお話もしました。ここからは、住みながらできる対策をピックアップしてみます。

6-1.北側の壁に注意。

太陽の日射があたらない北面は、冬の温度上昇は期待できません。だから水分はなかなか蒸発しにくいのです。

ここで内部結露にとって重要な、「気化熱」という概念に触れておきます。水は液体から気体に蒸発するときに、大量の熱を必要とします。だから結露した状態で、熱がなかなか与えられないと、水の状態で長期間保たれて、結果的に、腐朽菌が繁殖してしまいます。

だから、冬に温度上昇が期待できない北の壁は、要注意なんです。実際、北側の土台は腐りやすいので注意せよというのは、業界の常識です。できるだけ北面の壁沿いは、モノを置きっぱなしにしないとか、マメに草を刈っておくとかの対策は有効です。

6-2.夏は湿気た外気をできるだけ入れない。

最近の夏は特に、高温多湿でとても不快な環境です。夏は涼しい風を室内に通しましょうと推奨する方も多いですが、夏の湿気た空気を室内に取り入れるメリットは皆無です。

エアコンの電気代も跳ね上がりますし【下記補足参照】、第一カビやダニの繁殖を促すだけです。夏の風通しは、湿度が下がった日に限った方がいいでしょう。

【補足】温度を下げるよりも湿度を下げる方が電力を要します。温度を変化させるだけのために必要なエネルギーよりも、気体から液体へと状態を変化させるために必要なエネルギーが圧倒的に大きいからです。

6-3.除湿器はとても有効。

最近、朝に洗濯室で除湿器をセットしてから外出する奥様が、増えました。まさかの雨にも安心ですし、花粉症の季節も問題無し。除湿器の性能も上がったみたいで、重宝している方が多い様です。ただし、熱を帯びて室内が暑くなりますので、外出時に作動するのがいいみたいです。

6-4.窓の結露はマメに拭いた方がいい。

先ほど気化熱の話をしましたが、水分が蒸発する時には大量の熱が必要です。つまり周りから熱を奪うので周囲が冷える原因となります。冬に鍋をしたとき、室内で洗濯物を乾かす時など、冬場に窓ガラスに結露しているのを発見したら、マメに拭いた方がいいでしょう。

7.まとめ

住宅の耐久性を左右する最大の原因である「結露」。壁の中や床下などの目に見えない部分の結露対策は、丁寧な施工が第一。建物を長持ちさせるためには、最も注目していただきたいことです。