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1.夢が膨らむスタート時。敢えて理性的に構えたい。
「さあ家を建てよう!」と思い立った時は、夢が膨らむものです。
ご新居に欲しいものやご新居でやりたいこと。どんどんイメージが湧いてきます。「他の人たちはどうしているのかな?」 書店で雑誌を立ち読みしたり、ネットサーフィンやSNSを駆使したりと、役に立ちそうな情報を片っ端から探してみる。
そんな時間の合間にお奨めしたいことの一つ目。それは「総予算と計画内容の整合性を見極める」ことです。とても現実的なのですが、正しい手順を踏むならば、これが最初に着手するべきことなのです。
総予算と計画内容の整合性
とても現実的な話となりますが、住宅を取得するにあたっては資金計画をしっかりと立てておくことが何よりも大切。資金計画は、
- 新居に住み始めてからの毎月のキャッシュフローが生活に支障のない水準であることを確認し、そこから逆算して総予算を確定し、総予算から建築費用を算出する。
という手順を踏むことを、私たちはお奨めしています。
- キャッシュフロー= 毎月のキャッシュイン -( 毎月のローン返済 + 光熱費など住宅由来コストの増減 + 臨時の住宅関連の出費 ) + 税控除など.
- 総予算= 自己資金 + 借り入れ + 援助.
- 建築費用= 総予算 - (あれば土地取得費用 + 各種諸経費 + 保険など) + 助成金など.
全体像を把握しやすい様に、詳細を省いた算式としています。大切なのは、この順番で考える事。そうしないと、行きつ戻りつして、設計のやり直しを繰り返すという事態になり兼ねません。
予算配分はプロと相談しながら!
総予算の配分の上手さ、つまり建築費用の捻出の上手さが、住宅会社の技量といっても過言ではありません。
ローンの借入の場面で、住宅会社はしばしば、銀行と交渉して有利な金利条件を引き出します。これも大きな技量の一つです。それ以外にも、建築費用を捻出するために家づくりに付随する各種費用をコントロールするのですが、その各種費用の中には、例えば助成金や火災保険などの様に、建築する住宅仕様に連動するものがあります。だから住宅会社次第で、この資金計画の結果は変わるのです。
そして何よりも大切なのは、住まい手と作り手の足並みをそろえる事。予算の配分は誰もが悩むことです。だからこそ、資金計画を立てる時には、住宅会社の担当者としっかりと話し合いながら進める事をお奨めします。
資金計画の詳細については、別途あらためてご説明したいと思います。
各論にこだわり過ぎないこと。
住宅会社は各社、自社の特徴や強みをアピールしています。お客様におかれましても、そのような特徴を比較検討しながら会社を選定されると思います。
例えば各社のウェブサイトやパンフレットを見れば、断熱、省エネ、耐震など様々な性能を最新技術でアピールしているもの、設計のテイストでアピールしているもの、建材の魅力をアピールしているものと様々であり、とても多様化しています。
ただ、心に留めておいていただきたいことは、このような各論が長期にわたる我が家の価値を決定づけるものでは、断じてないということです。
建築の各要素は相互に影響を及ぼし合います。
例えば、気密をこだわり過ぎると、清浄な空気環境を維持するために過剰な設備や、換気を怠らないという住み手の努力を要します。あるいは、採光を最優先とすれば、夏の日射熱や冬の熱損失の面で不利となります。当然ながら性能が高くなればなるほど、その分価格が上がります。大金を費やしたほどの価値は無かったという事態にもなりかねません。
過剰な設備や性能が本当に必要なのかどうかの見極めは、それら個別要素だけではなくて、望む暮らし自体が本当に求めているかどうかという視点から、判断すべきことなのです。
住まいの価値は、優れたものの足し算では決まりません。
自分たち家族の今と将来に望むことをできるだけリストアップして、その情報を作り手とシェアして一緒に解決策を考えることを繰り返す。
これが後悔しない、価値ある家づくりの秘訣です。
2.空間軸。間取りは要素ではなく「行為」の切り口から考えたい。
それでは、いよいよ建築計画にフォーカスして考えていきます。ポイントは、時間軸と空間軸の両軸で構成される座標の上で考える事です。
間取り(平面計画)は人の水平移動を計画するもの。
間取りづくり(住宅プランニング)。これは敢えて言うならば、人間の水平移動を計画するために行うものです。私たちは実際の建物の平面をこの目でみることはできません。だから、間取りは見る物ではなく、人の行動を計画するものなのです。
今は、参考プランが世間に溢れています。キッチンのレイアウト、リビングとダイニングの配置関係、水回りの位置や動線、階段の設置の方法、収納スペースの確保、このような各要素の具体的なパターンは容易に取得できます。
世の中には何万種類、ひょっとすれば無限に近い程の数の住宅プランがあります。その中から自分にマッチしたプランを選ぶなど非現実的な話。
また一部の、例えば水回りなどの要素をつまみ食いして採用するというアプローチも多いですが、気を付けないといけないのは、住居は要素のみでは成立しないということ。各要素同士は、お互いに影響を及ぼしあう有機的な関係があるため、その際お互いの価値を損なわないような関係を保つことが必要です。
参考プランを真似てプランを作るのではなく、人間の水平移動つまり行為/動作という切り口から考えるのがあるべき方法です。
行為から考える具体例。
例えば、
- 健康を将来にわたり維持したい。健康寿命を延ばすことに関心がある。でも自分は怠慢だ。だから家で気分が乗った時にフィットネスができるようにしたい。
という課題を解決するというアプローチが、行為の切り口から考える家づくりです。例えばクライアント奥様からこのような問いかけがあると、設計者は次のように思考を巡らせるのです。
- 奥様が言うフィットネスとは、ヨガ? ピラティス? 有酸素運動? ワークアウト?
- とにかく気分の良い時間を過ごして欲しい。その場から何が見えて、何とつながっているか?
- フィットネスの後は汗を流したい。着替えも含めた動線をどうするか?
- 現在30歳の奥様、80歳になっても家でフィットネスができるにはどうするか?
- ご主人は10年後にもなればメタボ対策で、フィットネスの必要性が生じるかもしれない。
- 幼い子供たちも、成長に従い身体を動かせる仕掛けをしたい。
- 今2歳の男の子が7歳になってサッカーに夢中になったとしたら家にどんな場が欲しいだろう?
そして、
都会では今、シニア層のフィットネス人口が爆発的に増えている。地方でもそのうち普及して、生活者のニーズは高まるだろう。だからこの家族、3年もすればフィットネスが生活の一部になるかもしれない。
設計者がここまで想定すれば、ひょっとしてこのご家族は新しい未来を想像するかもしれませんね。つまり、奥様の何気ない一言から話を膨らませることで、設計者と施主が一緒に将来の暮らし方をイメージする、そして空間を作り上げる。
自由設計の家づくり。このようなアプローチで設計を進めてはどうでしょう?
3.行為の具体例。
先ほどは、家族のフィットネスをテーマとして建築計画のあり方をご説明しました。ここでは、これまでの設計の経験を踏まえ、他の具体例をいくつかご紹介します。
【事例1】 子供との会話が自然と発生するような、場の工夫が欲しい。
スマホが家庭の中にも浸透し、とかくに家族間の会話が断絶しがちです。自分の部屋に引き込もるよりは、居心地の良い家族共通の場があることで、そこに集まる時間が増える。スマホしながらでも会話が弾むかもしれない。このような事を想定した設計。家族一人一人が居心地の良いと感じる場所を徹底的に追及する必要があります。
【事例2】 その時の気分に合わせて、食事をとる場所を3つほど想定したい。
家族の食事。外食もいいですが、たまには非日常的な食事を家で楽しみたい。最近多いご要望です。この計画にあたっては、設計者と雑談を交わすことを通じて、具体的なシーンを描くことが成功への近道です。キャンプでの食事のようなひと時をウチで楽しむのもいいですし、日ごろテレビを見ながらの食事を禁止されている子供には、月に1回くらいはテレビを観ながら時間をかけて食事するのも、子供にとっては非日常です。お子様と一緒に料理をすることも想定したいですね。
【事例3】 平日に、主婦向けのミニ教室を開ける場(サロン)が欲しい。
少し前に「サロネーゼ」という言葉が流行りました。(2006年に雑誌VERYが特集を組んだことがきっかけみたいです。wikipediaより。)最近は、得意分野をお持ちの奥様が多いですし、その得意技を活かした教室を開く方も増えている様な気がします。
少人数をお招きする教室の場所は家族共用であるケースも多いです。だから、プライバシーも含めあらゆる角度からその場に求められる条件をリストアップして、解決策を探る必要があります。もちろん、教室を終了する将来にも配慮しておきます。
【事例4】 ゆっくりと一人で思索ができる場所が欲しい。
スティーブ・ジョブスもそうだった様に、瞑想の効果が広く認知され、それを実践される方も多い様です。でもなかなかそのような場所を外に求めることはできません。実は、家の中でも意外と無いんですね。
決して広い場所である必要はありませんが、家族に邪魔されずに瞑想ができたり、物思いにふけったりできる場所。恐らくそんな場所は、読書に集中できるでしょうから、秘密基地が好きな子供もお気に入りの場所となるでしょうね。丁度良い狭さ、低い天井、窓から見える景色、自然光の取り入れ方などが、設計ポイントでしょうか。
4.環境面と耐震面はプロに任せて!総合的判断を要する場面です。
住み心地や大地震への対策。誰もが求める要素です。これらについてはプロにお任せすることをお奨めします。
例えば温熱環境制御においては、断熱材の性能を重視するのは当然ですが、最近はどの製品もそこそこ高性能です。製品選び以外にも、
- 断熱材の施工方法/気密性能/劣化対策。
- 窓の種類と配置(大きさ、位置、数..)
- 日射熱への配慮(屋根、庇、外壁)
といった視点も求められます。そもそも温熱環境についてはプロでも意見が割れていることもあります。
例えば、環境共棲住宅では「家の中に風の通り道をつくって夏は涼しく過ごしましょう」という考えがありますが、夏場も乾燥気味の地域ならともかく、湿気を大量に帯びた夏場の外気をどんどん室内に取り入れる事が、果たして住み心地の良い環境となるかということも考える必要があるでしょう。
更に住宅用エアコンは、湿度調整に費やす電気代が物凄くかかります。温度を変化させるだけのために必要なエネルギーよりも、気体から液体へと状態を変化させるために必要なエネルギーが圧倒的に大きいからです。
また、住宅内の熱中症の原因は気温より湿度です。*詳しくは、こちらの記事、住まいの断熱性能を確保すべき理由とは?快適さの視点から解説します。の「4.湿度と輻射熱を特に重視しましょう(環境省の熱中症予防指針)。」をご参考下さい。)
風が通ると涼しそうというイメージ先行で計画する前に、一度プロにご相談下さい。
5.時間軸。将来の可能性を把握しておくことが何よりの備え。
これから長い時間付き合う新居。私たち家族にどんな未来が待ち受けているのでしょう?
そんな不確実な未来を、うまく包み込んでくれる器が本当に出来栄えの良い住まいだと思います。
そんな器を計画するために、先ずは将来の可能性をリストアップすることをお奨めします。未来の自分たちから必ず感謝されることでしょう。
具体的に想像してみますと、例えばですが、
- 10年後には、今は幼い子供の個室が必要となるかもしれない。
- 15年後には、子供全員巣立つかもしれない。
- 20年後には、親が一人同居するかもしれない。
- 25年後には、貸家にして、別のところに住むかもしれない。
- 30年後には、まとまった退職金がでるからそれを使ってこんなリフォームをしたい。
ポイントは、「かもしれない」という表現です。ここでもし断定してしまうと、それに縛られてしまい柔軟な設計の妨げとなってしまいます。視野狭窄のままで設計を進めることになり兼ねません。あくまでも最初は可能性にとどめましょう。設計を練っているとその可能性の中の一部が重要性を増すことがあります。それまで待てばいいのです。
漠然とした将来像ではあるのですが、頭を整理でき、冷静に計画に着手できるきっかけともなります。
6.もう一つの時間軸。1日の生活パターンの変化。
家にいる時間ってどれくらいでしょうか?それがこの先将来、どのように変わるでしょうか?
1日の生活と重視すべき点のシミュレーションを例として考えてみました。
- 30代 共働きだから日中は夫婦は不在。だから時短、休日の居心地、平日夜のリラックスを優先したい。
- 40代 子育てが生活のメインとなる。家事・子育ての時短、家族の時間を優先したい。
- 50代 子供が自立し、家族別々の時間が増える。それぞれの居心地と、関係性に配慮したい。
- 60代 子供が巣立つ。妻はアクティブでほとんど家にいない。家では、年齢相応の落ち着いた時間が欲しい。
- 70代 身体機能が弱ってきた。家にいる時間が増えた。動線の工夫が必要かもしれない。貸家とするのも選択肢。
- 80代 子供家族の同居を検討する。お互いのプライバシーへの配慮。寒暖の身体への影響への配慮。
住まいに求める事。それは機能性、安らぎ、そして楽しいひと時だと思います。それを可能とするために建築計画を練りに練るのですが、50年間のその時その時の、状態ありきで考える必要があります。
実際は、それら全ての条件を取り入れることは現実的ではありませんし、物理的に不可能でしょう。
しかし、このような将来の状態をリストアップして眺めることで、小さなことに偏らず広い視点で、不安の存在は認めた上でおおらかな気持ちで、家づくりに取り組むことができるのです。
7.まとめ。居心地とは?
着心地の良い服は、自分自身があまり主張しないものです。でも着ていて心地がいいからいつまでも長く着たい。居心地の良い家も、同じだと思います。
主張はせずに常にわき役。でもいつも家族の事を考えている。そんな家のおかげで、いつもストレスフリーで健康に暮らせる。毎日が楽しい。充実した「おうち時間」が過ごせられる。
自由設計の家づくりは、住み手の価値観をストレートに反映できる、とても贅沢なプロジェクトです。せっかくの贅沢な行為だから、それを存分に楽しんでいただきたいと思います。
でも、自由であればあるほど、難易度が高くなるのは事実です。家づくりにおいて迷った時には、今回の記事を読み返して頭の整理にお役立て下さいますと幸いです。
(ご参考)
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