1.人間が体感する暑さ・寒さや快適さは、気温だけでは決まりません。

私たちは天気予報から予想気温を知り、明日は暑いとか寒いとかを予測することができます。しかし私たち人間が感じる温度は、気温だけでは測ることができません。その他のモノサシにも配慮しないと本当に快適かどうかを知ることができないのです。

人の快適さを左右する要素は、大きくは次の3点です。

 
  • 気温
  • 周囲のモノの温度(輻射熱)
  • 湿度

その他にも、気流、人間の着衣量や活動量などにも左右されますが、影響の度合いが比較的軽微なため、ここでは省略します。

住居の快適さを考える時は、この3つの視点から考える必要があります。実際、夏の不快さはじめじめした湿気のせいだとか、道路の照り返しでとても熱いだとかを、体感を通して感じることもあるでしょう。

住まいの快適さを考えるために、このような「体感」について更に詳しく見ていきましょう。

2.モノが発する熱の影響。

私たちが体感する「快適さ」に影響を及ぼす原因の一つが、モノが発する温度です。

2.1 都会の夏の暑さ


例えば夏の暑い日。同じ気温35度でも、都市部と郊外での、それぞれの屋外での快適さは大きく違ってきます。芝生や下草のある土の表面温度は概ね外気温と同じですが、コンクリートやアスファルトの表面温度は、外気温プラス15-20℃。つまり、50-55℃にも上昇しています。

真夏の日中に外を歩く時には、外気温と50-55℃に熱せられた都市の、両方からの影響を受けているのです。また、コンクリートやアスファルトは熱を蓄える機能が高いので、夜になってもなかなか温度が下がりません。つまり、都市部の夏は夜間・日中限らず、床暖房が縦横に張り巡らされていると言えます(これを、ヒートアイランド現象と言います)。


もう一つ実例を挙げてみましょう。

2.2 涼しい鍾乳洞

夏に鍾乳洞に入ると、一瞬でヒヤッと感じたご経験はありませんか?

もちろん、鍾乳洞の中の気温が、夏の外気よりも低いことも理由の一つですが、実は洞窟の表面温度も低いことも大きな原因なのです。

鍾乳洞は、太陽熱の影響を1年を通じて受けないため、その地域の年間の平均気温で年中一定に保たれています。洞窟の表面温度が常に一定だから、洞窟内の気温も一定に保たれているんですね。

因みに、山口県の「秋芳洞」で言えば鍾乳洞内の温度は1年中、約17℃を維持しているそうです。冬に入ると、逆に暖かく感じるでしょうね。

(参考)日本観光鍾乳洞協会

2.3 薪ストーブが暖かい理由。

暖房器具の一つ薪ストーブ。

ストーブが発する熱で室温を温めますが、ストーブに手のひらをかざしてみると、焚火の炎に手をかざした時の様に、手のひらがじわっと暖かくなります。ストーブ本体が放つ遠赤外線が、室温とは関係なく直接身体を温めてくれます。

2.4 モノは熱を放射しています。

以上のような事例で分かるとおり、人間が体感する暑さ・寒さや快適さは、モノの温度に大きく左右されます。物理現象の話となりますが、全てのモノは熱を赤外線として「放射」しています。

温度の高いモノの方が強い赤外線を出しているため、結局は熱いモノから冷たいモノへと熱は移動します。この熱のやりとりで、モノである人体と、身近にあるモノとが熱のやりとりをしているのです。この熱を放射熱(または「輻射熱」)と言います。

3.湿度による快適さ・不快さ。

人間が体感する快適さは、湿度の影響も大きく受けます。経験的にご理解いただけると思いますが、その理由は人体の機能にあるんです。

人は、体温が高くなった時に汗をかきます。汗をかくと、皮膚の上で汗が蒸発するときに熱が奪われます(これを気化熱と言います)。熱が奪われることで、高温の体温の状態が続くことを避けて、体温を36.5℃前後に保つことが出来るのです。(もし汗をかかなければ、生命維持が危ぶまれます)

このように、私たち人間は汗をかくことで身体を冷やすことができますが、空気中の湿気が高いとその汗の蒸発速度が落ちてしまいます。

湿度80%と50%の空気を比べた場合、湿度50%の空気の方が、さらに水蒸気を受け入れるポテンシャルが高いので、蒸発する汗を受け入れやすい、つまり、汗が蒸発しやすいのです。だから、湿度が低い程涼しく感じるのです。

砂漠地帯よりも日本の夏の方が厳しいという声を耳にしますが、その原因は湿度の高さなんですね。

因みに、東京の8月の湿度は概ね、80%から90%です。エジプトのカイロでは、同じ8月は湿度60%前後、両都市の気温、いずれも30-35℃の場合です。(参考)Weatherspark

このように、「湿度」も人間が体感する快適さを左右する要因の一つなんです。

4.湿度と輻射熱を特に重視しましょう(環境省の熱中症予防指針)。


気温、輻射、湿度が快適性を左右する3つの要素ですが、それでは、この3つの重要度はどうなのでしょうか。

ここでは、夏の目安として環境省が提唱する「暑さ指数(WBGT)」をご紹介します。

暑さ指数(WBGT:湿球黒球温度)とは。
人間の熱バランスに影響の大きい気温 湿度 輻射熱の3つを取り入れた温度の指標です。熱中症の危険度を判断する数値として、環境省では平成18年から情報提供しています。(参考)環境省ウェブサイト

つまり、熱中症の危険度を判定するにあたっては、気温だけではなく湿度と輻射熱にも配慮しないといけないですよと、注意を促しています。

当サイトにおいては、WBGTがどれくらいの数字になると、危険な状況かということがわかります。ここで注目したいのが気温、湿度、輻射熱の3つの影響度。

環境省ウェブサイトより引用

気温が1、輻射熱が2であるのに対して、湿度が7と最も影響度が高いですね。つまりこれは、熱中症対策として気温以外にも、湿度や輻射熱にも配慮して下さいねということを示しています。

5.室温だけで快適さを判断すれば「不快な環境」となる理由。


人間が体感する、暑さ・寒さや快適さは、気温だけでは決まらないことをこれまでにご説明しました。住宅でも気温(室温)、輻射熱、湿度の3つの指標に配慮しないといけないことがこれで分かります。例えば夏場、エアコンで室内の空気を冷やしたり温めたりするだけでは不十分。輻射熱や湿度にも配慮しないといけません。

人が実際に感じる体感温度の目安は、次の計算式から求められます。



MRTは平均輻射温度と言います。天井、壁、窓、床など部屋を構成する面の温度の平均値です。

例えば、冬の日を考えてみましょう。エアコンで室内の空気を20℃に設定したとします。この時ひんやりとした床が6℃、壁が8℃、窓ガラスが5℃と仮にしましょう。これらの数字を使ったMRTが7℃であれば、

体感温度 = ( 20+7)/2 = 13.5℃

先ほどの放射熱のやりとりでご説明したとおり、人体から冷たい部屋の各面へと熱が移動するから実際の室温20℃よりも寒く感じるのですね。もし体感温度を20℃にするには、理論上、室温を33℃にまでエアコンで温める必要があります。

冬に部屋を室温33℃に温めることは、現実的ではありません。健康に悪影響が出るでしょう。だから、室内の天井、壁、窓、床の表面温度がとても大切なんですね。


体感温度の他に大切な要素である湿度ですが、快適な湿度は、40%から60%の間です。除湿や加湿でコントロールして快適な湿度に維持することをお奨めします。

また、住宅建材で湿度をある程度コントロールすることもできます。特に無垢材の床や漆喰など天然素材は、調質性能が高いためお奨めです。これについては別途改めてご説明したいと思います。

6.室内環境を快適にするために必要な「断熱性能」

これまでに、快適さを測るモノサシが、室温、湿度、放射熱の3つあることをご説明しました。室内の放射は壁、天井、床、窓との熱のやりとりで決まります。だから外気と室内空気とを遮るこれらの部分の断熱性能が、とても重要になるのです。

エアコンで空気を温めたり冷やしたりするのは室温をコントロールしているだけです。だから、断熱性能が劣る住まいでは、本当に快適な環境にはならないのです。

熱の移動には3パターンあります。

熱の移動3原則。

      
  • 伝導
  • 放射(あるいは輻射)
  • 対流

伝導とは、直接触れた時の熱の移動です。住まいでは床暖房が身体に直接触れますので、伝導の原理を活用した暖房器具です。放射は、先ほどご説明した薪ストーブが該当します。エアコンは空気そのものを温めるため、対流による熱移動です。

暖房器具を選んだり、住まいの断熱性能を考える根拠がここにあるのです。

7.まとめ

人の身体は、熱の移動のやりとりで快適さや不快さを感じています。エアコンの様に空気だけを温めたり冷やしたりするだけでは不完全です。室内環境を快適に保つには、住まいの断熱性能をしっかり確保することが大切です。また、湿度からの影響も大きく、特に熱中症対策でも配慮すべき要素なのです。