目がチカチカする、頭が痛い、身体がだるい、吐き気がするといった状態が常に続く、とても深刻な疾患であるシックハウス症候群。「今まで平気だったから、これからも大丈夫」と安心はできません。健康な人が、ある日突然発症するのがシックハウス症候群です。

この疾患は、室内に充満する揮発性有機化合物(VOC)を毎日吸い込んで、それが体内に蓄積されて身体の許容量を超えたとたん、急に発症するのです。

政府は、シックハウス症候群を発症する人が爆発的に増えた事を踏まえて、対策の検討を重ねています。しかし対策が万全とは言い難いのが実情です。

今回は、政府の規制の動きを追いながら有害物質の規制の実態、そして実際に人が生活している家屋での空気汚染の調査結果から分かった汚染の実態を、お伝えしたいと思います。私たちの日常生活に直結するお話です。

1.厚生労働省のVOC13物質ガイドラインが今の基準です。

社会問題化したシックハウス症候群を、国としても放置するわけにはいかず、検討会を重ね、2002年に厚生労働省は、VOC規制の指針を掲げました。

その内容は、13種類のVOCそれぞれについて、室内における濃度の指針値を定めたガイドラインです。その13物質とそれらが使われている主な建材は以下の表のとおりです。

厚生労働省資料より引用。

ここに示した指針値は、

「現状において入手可能な毒性に係る科学的知見に基づき、ヒトがその化学物質の示された濃度以下の曝露を一生涯受けたとしても、健康への有害な影響は受けないであろうと判断される値を算出したものであり、その適用範囲については、工場その他特殊な発生源があるような室内空間でない限り全ての室内空間が対象となる。」(厚生労働省資料より。)

と銘記されています。つまりこれら13の物質それぞれが含まれる空気を、日常的に吸っても健康への悪影響は無いという判断のもとで設定された、数値です。

2.規制13物質以外の有害物質が使われているのが実情です。

このガイドラインが発表された後、これらのVOC13物質の指針値を守って、建材メーカーは商品を製造することとなりました。ところが、その替わりに規制対象ではない別の新たなVOCを用いて、建材を製造する動きが見られたのです。

接着剤、塗料、断熱材、プラスチックなどの新建材には、石油から製造される人体に有害な化学物質が、必ず使用されています。その種類は数百もの数があると言われており、それらの人体への影響は未だ解明されていません。そんな中、建材メーカーは国のガイドラインを守る範囲で、商品を開発しているのが実態です。

3.抜本的な対策は未だ無し。国と産業界のいたちごっごの様相に。

このような産業界の動きを受けて、国は濃度指針値を改訂して、そして新たに3物質を追加するよう2017年に検討を開始しました。しかし平成31年10月時点では、新たな3物質の追加は先送りされています。

厚生労働省の報告書を読めば、規制する事そのものに高いハードルがある様です。(参考:平成31年1月17日 中間報告書 厚生労働省シックハウス問題に関する検討会中間報告書)

こういった国や産業界の動きの一方で、シックハウス症候群を患う方々は後を絶ちませんし、根絶に向かっているとは到底言えません。ある化学物質を規制すれば、別の化学物質が使われる「いたちごっこ」が、これからも繰り返されるのではという指摘もあります。

シックハウス症候群という社会問題の背景には、このような事実が存在しているんですね。

4.政府が行った空気汚染の実態調査の結果をご紹介します。

先ほどは、VOCの規制と新建材の開発とが、いたちごっこの様相を呈していることについてお伝えしました。

次に、平成25年に厚生労働省が実際の住居で空気を測定した結果に、この「いたちごっこ」を証明するような結果が見て取れましたので、ご紹介したいと思います。

4-1.  調査では、規制13物質以外の物質による汚染も測定しました。

平成25年厚生労働省調査の結果はこちらの、h25厚生労働省室内空気実態調査で公表されています。

平成25年に実施されたこの調査。全国で無作為抽出したおよそ100の住居、東京圏で同じく100の住居それぞれで、規制の13種類のVOCと、それ以外の物質を総合したTVOCという指標、それぞれの濃度を測定しました。

TVOCとは、規制の13物質以外の様々なVOCの濃度の合計のことで、「総揮発性有機化合物」の略称です。上の表にある13種類のVOCの規制値のように、TVOCにも暫定目標値というものを掲げて、業界の自主規制を促しています。

13物質以外のVOCの規制が整備されていない中で、様々なVOCが建材に使われている現状を深刻にとらえて、業界の自主規制を促すための暫定目標値を、厚生労働省は定めているのです。

一つの建材には複数のVOCが使用されていますし、室内には数多くの種類のVOCが、実際には充満しています。今回の調査のTVOCを測定するということは、数百もある物質それぞれを厳密に測定するのではなく、全てのVOCをまとめた濃度を測定するという方法なのです。

4-2. 調査結果で、規制されていない有害物質が、大量に使われていることが判明。

さてそれでは、この平成25年の調査の結果はどうだったのでしょうか。調査報告書から、エッセンスを抜粋してみましょう。

対象の13物質については指針値を超えた住居の割合はほぼゼロ、多かった物質でも5%程度でした。優秀な結果であると思います。

ところがTVOCについては、暫定目標値を超えてしまった住居が、なんと35%前後という深刻な結果が出ました。つまり、規制13物質以外のVOCを使用した新建材が普及していると、大いに推測できたわけです。

 

恐らくこのような事態は将来にわたり続くでしょうから、私たちとしてはこの現実を踏まえた上で対策を講じるしか、残念ながら無いようです。

5.まとめ

ホルムアルデヒド、トルエン、キシレンといったVOC(揮発性有機化合物)13物質を、室内濃度指針として政府は規制していますが、市場に出回っている住宅建材の大半には、規制対象外のVOCが使用されています。実際に人が暮らしている住宅での実態調査でも判明したとおり、規制対象外のVOCの濃度は、安心安全とは言い難い結果となりました。

目に見えず、気が付きにくい空気汚染。微量の有害物質を毎日吸い込むことでシックハウス症候群を発症します。新築やリフォームに着手する前に、今一度建材の危険性について再確認されることをお奨めします。

参考リンク

シックハウス症候群とは?原因や対策を住宅の専門家が詳しく解説します。