1.断熱改修をした人の声。

断熱改修をした方々の声を拾ってみました。

冷え性のため、改修前は夜だけコタツで食事をしていました。今は、床や足元が冷たくないので、血液がちゃんと流れている気がします。精神的にゆったりし、幸せを感じ、安心感もあります。(65歳女性) -引用。健康長寿住宅エビデンス取得委員会。

冷え性の方からのお喜びの声はよく聞きますね。

以前は就寝後の排尿回数が2-3回でしたが、改修後は1回になりました。(T様ご夫妻。ご主人74歳、奥様70歳) -引用。同上。

夜間頻尿の解消には効果が高いと言われています。


改修前、暖房のしすぎは体に良くないと思い、こたつと厚着で過ごしていました。改修後は快適です。台所の足元が暖かく、料理とじっくり楽しむ余裕ができました。(76歳女性) -引用。同上。

暖かい家になれば、家の中で活動的になるのは想像できますね。


2.冬の室温の理想は21℃。寒いほど健康を損ないます。

「寒さは健康の大敵」と言います。当然、長時間身体を冷やすと、身体を悪くするのは経験的に分かりますよね。理想とする冬の室温と湿度は、次のとおりです。

室温20-22℃
湿度40-70%



最低でも室温は18℃を維持すべきで、16℃を下回ると呼吸器系疾患に影響があると言われています(2010.3英国保健省年次報告書)。湿度が40%を下回ると、インフルエンザウイルスが活性化します。


ただ実際、室温が18℃以下となるケースや、起床時は特に寒いという方も多いでしょう。廊下やトイレに行くときは、特に寒いという方も大勢いらっしゃると思います。


健常な方は、風邪などの予防のために長時間身体を冷やさない様に努めるでしょうが、高齢者にいたっては、寒さによる刺激に弱いため、血管の収縮による血圧上昇を招きやすいのです。


現在のお住まいはいかがでしょうか?


いつもいる居間やダイニングは暖かくても、廊下やトイレは寒くないですか?床が冷たくて、慢性的に足が冷えませんか?


寒い住宅の健康へのリスク。今回は高血圧に焦点をあてて、寒い住宅に警鐘を鳴らしたいと思います。


3.室温と血圧の関係。

高血圧が様々な病気の原因となるのは、ご存知のとおりです。高血圧は、自覚症状が無いためそのまま放置しがち。ある日突然、脳、心臓、腎臓などの合併症を発症します。だから、高血圧は「サイレント・キラー(沈黙の殺し屋)」と呼ばれています。

高血圧の90%以上を占める「本能性高血圧症」(臓器の病変から生じる高血圧を除いたもの)。主には、次に挙げる生活習慣が原因とされています。

過剰な塩分摂取
肥満
過剰飲酒
精神的ストレス
自律神経の調節異常
運動不足
野菜・果物不足(ミネラル不足)
喫煙
国立循環器病研究センター病院 ウェブサイトより引用)


また、同ウェブサイトにも記載されているように、冬は夏よりも血圧が高くなりがちです。つまり、低温下では血圧が上がりやすいということが分かっています。

しかし、減塩や肥満解消などは高血圧対策として認知が広がっている一方、冬の寒さ対策を高血圧対策と見る方は、とても少ないと思います。その理由としては、日本高血圧学会による「高血圧治療ガイドライン」で認められた、科学的根拠に基づいた高血圧の要因の中に、「低い室温」が含まれていないことにあります。


現在は、一般に知られてはいませんが、次にご紹介する国交省調査により重要な知見を得られたことから、今後世間での認知も加速すると考えます。


4.高血圧と室温との関係について有意な知見が得られた国交省調査。


国交省が「住宅内の室温の変化が居住者の健康に与える影響」についての調査を、平成26年から5年かけて実施しました。その結果が平成31年1月24日に公表されました。

ここで得られた知見は、今後の健康寿命を延ばす住宅を考えるにあたり、とても有意ですので、ご紹介したいと思います。(エッセンスをこちらの資料 断熱改修等による居住者の健康への影響調査 概要 別紙2より抜粋しました)


【知見1】室温が年間を通じて安定している住宅では、居住者の血圧の季節差が顕著に小さい。
夏冬の室温の差が小さい、つまり断熱性能が高い住宅ほど、血圧が安定するということです。



【知見2】部屋間の温度差が大きく、かつ、床付近の室温が低い住宅ほど、血圧が高くなる傾向がある。
例えば、廊下やトイレに行くと寒い住宅は部屋間の温度差が大きくなります。また、足元が寒い住宅も、同じく血圧が高くなる傾向があるようです。高血圧予防の観点から、局所暖房(普段居る場所だけの暖房)は好ましくないということが示唆されました。


【知見3】断熱改修工事の前後で、起床時の血圧が下がった。
断熱改修前後のデータが得られた975人を対象とした結果です。最高血圧でおよそ3.5mmHG、最低血圧でおよそ1.5mmHGそれぞれ下がりました。

この数字は大変意味のある数字です。


厚生労働省の推計によれば、40-80歳代の国民の最高血圧を平均4.0mmHG低下させることで、脳卒中死亡数が年間1万人、冠動脈疾患死亡数が年間約5千人減少するとされています。だから、断熱改修後に、平均で3.5mmHG下がった結果は注目に値すると考えます。


循環器系疾患の場合、冬の朝の血圧上昇が発症の一番のトリガーです。循環器系疾患のご家族がいらっしゃるご家庭では、朝の室温を理想値に保つためにも、断熱住宅を強くお奨めしたいです。


【知見4】室温が低い家では、コレステロール値と心電図に異常がある人が多い。
コレステロール値と心電図のそれぞれの異常は、いずれも高血圧が原因と思われます。



【知見5】就寝前の室温が低い住宅ほど、過活動膀胱症状を有する人が多い。また、断熱改修後、それが緩和した人が多い。
先ほどご紹介した声にもあったように、夜間頻尿の改善の声はよく聞きます。



【知見6】床付近の温度が低いことが、様々な疾病や症状の原因の一つとなっている。



【知見7】断熱改修後の住宅では、室内で身体を動かす時間が増えた。
例えば、断熱改修前は、寒いからコタツにじっとしている時間が多かったけれど、改修後は家中が暖かいので、歩く頻度が増えたという様な変化が想定されます。糖尿病予防の観点からも、身体活動をできるだけ増やすことが推奨されています。自ずと身体を動かすことを促すという意味でも、断熱住宅の健康への寄与が大きいと思います。


5.断熱住宅で血圧が下がった事例-高知県梼原町の例。


以上の国交省調査でも判明したとおり、住宅の断熱化は、血圧低下に極めて有効です。しかも、降圧剤の服用は不要で、室温を温めるだけで血圧を下げられるという即効性があります。

先ほどの国交省調査は、およそ1,000人弱の方の家屋の断熱改修の前後での比較でした。その他、高知県で実施された興味深い社会実験の結果がありますので、ご紹介したいと思います。



高断熱住宅の宿泊体験による血圧測定比較(高知県梼原町)
 -出展は、健康長寿を実現する住まいとコミュニティの創造H24からH27  調査報告



梼原町に住む高齢者に、町に建設した高断熱の体験型モデルハウスで生活してもらい、室温、血圧、心電図などを計測し、断熱性能の低い自宅での計測結果と比較しました。



ある70歳の男性の場合、モデルハウスは平均で自宅よりも室温が7℃高い環境でしたが、平均血圧が約6mmHGも下がったとのことです。


この男性以外にも大勢の高齢の町民が参加された様ですが、ほとんどの皆さんが暖かいモデルハウスでの生活で、血圧が下がりました。この実験でも判明したとおり、室温と血圧には密接な関係があるようです。

6.要介護を4年延ばすという知見。

住宅の断熱化で健康寿命を4年延ばせる」という結論を出した注目に値する論文があります。(論文 住宅内温熱環境と介護予防

これは、大阪在住の高齢者80人を対象に、要介護状態かどうかという点と、対象者の住環境を合わせて分析した結果です。この論文によれば、断熱住宅かどうかで要介護となる年齢が、4年の差が生じているとの結論を導いています。

サンプル数が80名と少々少ないですが、より多くの対象者での分析調査が今後期待されます。


高血圧を原因とする、脳や心臓などの疾患を理由に要介護となるケースが多いため、断熱住宅が健康寿命を延ばすと言っても過言ではないでしょう。


7.断熱リフォームの補助金。


こちらでは、既存住宅の断熱化工事への補助金をご紹介します。毎年、公募時期の締め切りがありますので、最新情報は、各ウェブサイトより取得してください。


(1) 高性能建材による住宅の断熱リフォーム支援事業(断熱リノベ)


省エネ効果が15%以上見込まれる断熱リフォーム工事が対象です。戸建て住宅の場合ですが、最大で120万円支給されます。詳しくはこちらへ。


(2) 次世代省エネ建材支援事業

短工期で施工可能な高性能断熱パネルや、調湿・蓄熱等の付加価値のある建材を使用する断熱リフォームが対象です。補助対象費用の最大1/2の金額が支給されます(前年度の上限金額は戸建住宅では200万円でした。詳しくはこちらへ)


8.まとめ。「寒さは健康の大敵」は本当です。



まだまだ一般の認知が浅い、冬の住宅の室温と高血圧の関係。寒い住環境が、気づかないうちに深刻な疾患の原因となりうることを、知識として知っておいて下されば幸いです。また、健康への配慮として、温湿度計を室内におき、確認されることもお奨めします。